前回の『部下の心理を知って同じミスを防止する!その①気持ちに寄り添う』では、ミスをした部下の心理を知り、まずそれを受け止めて安心感を与えるということについて書かせて頂きました。
今回は、少し気持ちが落ち着いた部下への『失敗を成功に導くアプローチ』の方法を記述していきます。
まず、よくあるアプローチの方法としては上司から一方的に「あの場面でこんなことをするから失敗するんだ。次からはこうしなさい!」と『教える』方法があります。
俗にいうティーチングというアプローチ方法ですが、これはとても小さなミスの場合には有効な手段ではありますが、すべてのミスの度に「次回策」を上司が教えてしまっては部下の「何が原因だったか」「次はどうすればいいか」という自身で考える力が育たなくなってしまい、いつまでも事あるごとに上司の指示を仰ぐ部下になってしまう可能性があります。
確かにその方が迅速にことが運ぶ面もありますが、上司の方は1人の部下だけを受け持つわけではないので、長期的に見るとこの方法のみだと教え続ける側に負担が掛かってしまい、疲弊してしまいます。
同時に部下の方の立場からしても、いつまでも上司の指示を仰がなければ行動できないという事実は、「自分で出来る」という感覚を得る機会を奪ってしまいますから、自信がつかない原因にもなりますし、人によっては「困ったことがあったら上司に聞けばいい」「言われたことをやっていればいい」などといった依存的態度を助長させる可能性があり、長期的に見てもマイナス面が多いように思います。
「ミスを成功に導くアプローチ」
もちろん困った時に相談できる関係性は組織において必須ではありますが、その地盤として「自分で考える」「自分の意見を言える」「自分で責任を持って行動できる」
そういう思考や行動の基礎があってこそ、双方にとって働きやすい環境が成り立つと考えられますので、ここではコーチングのエッセンスを使った一番シンプルな「ミスを成功に導くアプローチ」を紹介したいと思います。
一番シンプルな方法とは、「しっかり振り返りを行うこと」「その後次からどういう行動を取るか具体的に決めておくこと」この2点をミスが発生した際に上司と部下が一緒になって考えて「ミスを成功への資源(リソース)」とすることです。
振り返りに関しては原因追及をするというよりは、改めて起きた出来事を検証するという観点で取り組み、感情を入れないことがポイントになります。
例えるならすでに終わった将棋の戦局の盤の上の駒を一緒に見るような感じです。
「ここでこういう出方をしたのは、こういう思惑と目的があったからだね」と、共に戦局を振り返ることに似ていると思います。
「あの時こうしていればよかった」「ここでこういう出方をしたからこうなった」という後悔が必ず出てくると思いますが、それが出る度に振り返りが止まってしまってはまた感情に飲まれてしまい、適切な振り返りをすることが出来ません。
なので振り返り時間にそのような感情が出る度に「そうだね、そう思うよね」など心に寄り添う言葉をかけながら何度でも「今は振り返りに集中してこの悔しさをどう活かすかを話し合うことに注力しよう」という声掛けをし、感情に囚われて過去に心が戻ってしまう部下に対し「今すべきこと」を明確に提示し、何度でも「今」に呼び戻して話を進めて下さい。
そうすることで互いに落ち着きが増し、冷静に戦局の振り返りを客観的に行うことが出来るようになります。
そして振り返りが終わったら次はこの質問をして頂きたいのです。
それは
「もし今、この時に戻れるとしたら次はどんな行動を取ったら上手く行きそう?」
こう聞いてみて頂きたいのです。
すると多くの部下は「ここでこうしないように気を付けます」
「次はこうならないように頑張ります」というような「意志表明」をします。
今まで沢山の上司の方を見てきて、みなさんこの「気を付けます」「次は頑張ります」が聞けたら満足してしまい、振り返りが成功したかのように思いここで「じゃ、次からは気を付けてね」と話し合いを終えてしまうことが多かったのですが、これでは「具体的な対策」は何もなされていないので、ミスを繰り返す要因になりかねません。
ここはもう一歩踏み込み、「気を付けます」「頑張ります」という言葉が出てきたら
「そうだね、ここで気を付けるといいね。じゃあ、何をすれば(どうすれば) ここで気を付けることが出来るかな?」
と、「気を付ける=意思表示」に止めずに「何をするか=具体的な行動対策」を明確にしていきます。
ここが「自分で考え」「自分で行動する」ことが出来る自立した部下を育て、ミスを再発させない大きなポイントになりますので、上司の方にはぜひ踏ん張って頂きたいところです。
考える力
この質問をして、「そうですね…今回はこういう行動がまずかったので、次からはこうしてみます」という答えがすんなりと出てくる部下の方もいらっしゃいますが、中には考える力がまだ育っていない方の場合だと、どうすればいいか分からず、具体案が出せずに黙ってしまう方が多いのも現状です。
その場合には少しだけティーチングの力を借りるのが有効です。
ですが「その時はこうしたほうがいいよ」と簡単に教えてしまっては「自分で考える」力が育たたなくなってしまいますので枕詞で「例えば」をつけてヒントという形でいくつか具体案を提示し、思考を刺激するのがお勧めです。
「例えばAという行動も有効そうだし、Bという行動もあるかもね。あなたはどう思う?」
そんな感じでヒントを出すと、「ああそうやって考えればいいのか」と思考のコツが分かり「じゃあ、あの場面ではこうします」と自分の答えが出る方は多いものです。
例えをいくら出しても答えられない部下の方も中にはいらっしゃいます。
その場合は過去の成功体験が著しく乏しく自信が完全に失われていたり、過去の失敗で激しく勇気をくじかれてしまっている場合など、人によって様々な理由があったりしますので、答えが出せないから「無能だ」「ダメな奴だ」と簡単に見限ることはせず「今はこういう状態なだけ」と思い、彼ら彼女らの未来の可能性をちょっとだけ信じてあげて、考えさせてみてどうしてもだめだったらティーチングをして「こうしてみたら上手く行くからやってみて」と教え、最初のうちは小さな成功体験を積ませて自信を持たせていくことが大切だと考えられます。
自分で考える力を育てるのはそのあとからでもいくらでも出来ます。
次の行動指針
こうして「次の行動指針」が決まれば具体的に動きやすくなりますし、自分で決めた行動指針は人から指示されたことに比べてモチベーションが上がりやすい傾向があります。
「じゃあ次からはこうやって動いてみて」と締めくくるのも悪くはないのですが
ここで最後に
「じゃあ次からはこうやって動いてみようか。どう?これなら出来そう?」
と「この行動指針で動けるかどうか」の最終確認が取れるとなおいいです。
「出来ます!」と最初と違って声や表情が多少元気そうになって言えれば問題ないです。
もし「出来るかな…」と少しでも不安そうな声を出した場合は
「何が不安か」「ほかに何があれば出来そうか」などを細かく聞きだし、次の戦局で勝つための必要な駒は何かをまた一緒に考え出してあげてください。
部下に上司として育ててもらっている
ミスは確かに双方にとって気分のいいもではありませんが、逆の見方をすれば、ミスをしたということは「行動した、挑戦した結果」だと言えます。
行動も挑戦もしなければ、ミスをすることすらありませんし、行動・挑戦を選んだ時点でその部下の方には「勇気」も「成長意欲」もあるということです。
そういうプラスの面を上司であるあなたが信じ、徹底的に向き合うことでどんな部下でも確実に変化を遂げますので、面倒くさがらずに
「部下に上司として育ててもらっている」と思い、部下育成に取り組んで頂けたら幸いです。